#009グローバルな職場における異文化間の信頼関係構築 — 日本のビジネスパーソンが押さえるべき4つの視点

多様な国籍・文化的背景を持つメンバーが集う職場では、それぞれが自由に意見を交わせる環境があってこそ、多様性は本当の意味で組織の力になる。そして、そうした環境をつくる土台となるのが、メンバー同士の良好な人間関係である。

とはいえ、文化的背景が異なる相手との関係構築は簡単ではない。

「なぜか、あの人とは距離が縮まらない」

「失礼なつもりはないのに、なぜか冷たく受け取られてしまう」と、文化的背景が違う相手に対して思ったことはないでしょうか?

実はこうした「なんとなく噛み合わない」の背景には、文化による関係構築の違いがあるかもしれません。

私自身、フランスで環境保全に取り組む企業に長期インターンをしていた際、インターン生自ら社員の人をカフェにコーヒーを飲みに誘い、キャリアについて話を聞くことが当たり前のように行われていた。このように、職場外で積極的に上司にアプローチして関係を築いていく姿勢にはとても驚いた。

アメリカのアイビー・リーグの学生の話によると社内のメンバーにとどまらず、LinkedInを通じて理想のキャリアを築いている人に数百通ものコールドメールを送り、カフェで面会のアポイントを取り付けるというネットワーキングの方法をとることが当たり前に行われているようだ。

カフェで初対面に近い相手と関係を築くという発想は、日本ではあまり馴染みがないように思う。こうした距離の詰め方も、文化的背景からくる上下関係の感覚と無縁ではないだろう。

日本、アイルランド、フランスの3カ国で生活し、それぞれの文化の違いを肌で感じてきた経験から言えるのは、関係構築の背後にある文化的な要素を理解することが、異文化間の信頼関係を築くうえで大きな助けになるということである。

本稿では、グローバルな職場で信頼関係を築くうえで意識すべき4つの視点、

1,ロケーション

2,上下関係

3,自己開示の範囲

4,立ち居振る舞い

を取り上げ、多様な文化的背景をもつメンバーが存在する職場で働いている、日本人ビジネスパーソンが信頼関係を築く上で活かせる視点について述べる。

 

1. ロケーション

親睦が深まる「場」は、文化によって大きく異なる。日本では、特に上司との関係構築は職場の外、飲み会やカラオケといった場で進むことが多い。仕事の話から離れた場でこそ本音が出やすいという発想が根底にある。

一方、フランスでは関係構築の主戦場は職場の中にある傾向がある。廊下でのすれ違いざまの会話、ランチタイム、給湯室でコーヒーを淹れている数分間。そうした業務の合間のちょっとした時間こそが、関係を深める機会として重視される。

この違いを知らないまま、文化の違う人と働くと、「飲み会に誘われないから距離を置かれている」あるいは「雑談に付き合ってもらえないから相手は自分に関心がない」といった誤解が生まれかねない。大切なのは、相手の文化ではどこで・いつ関係が深まりやすいのかを観察し、そこに歩み寄る姿勢である。

2. 上下関係

程度の差はあれ、権力や上下関係の感覚は、誰が誰とどのレベルの関係を築けるか、そして誰が関係構築の主導権を握るかに影響を与える。

たとえば、上下関係を重んじる文化で育ち、目上の人には敬意と一定の距離を保つよう教えられてきた人が、上下関係がフラットなスタートアップ企業で働くことになったとする。休憩室で役職に関係なく冗談を言い合い、気さくに雑談する光景に加わることに、抵抗や違和感を覚えるかもしれない。

逆に、上下関係が比較的フラットな文化で育った人が、上下関係を重視する文化圏の企業で働く場合はどうか。上司には敬意を示し、関係構築の糸口となる小さなサイン—個人的な話題を少し共有してくれる、ちょっとした気遣いを見せてくれる、といった間接的な合図—を辛抱強く待つ姿勢が求められる。

日本企業においても、年功序列や役職への敬意を重んじる場面は依然として多い。海外の同僚やクライアントと接する際は、自分たちの上下関係の感覚をそのまま当てはめず、相手がどのような「権力」の捉え方をしているかを見極めたうえで、関係の築き方を調整する必要がある。

3. 自己開示 

関係構築には多かれ少なかれ自己開示が伴うが、「何を」「どのくらい早く」開示するかは、文化によって大きく異なる。

自己開示に対してオープンな文化圏では、家族の話やプライベートな悩みごとも比較的早い段階で共有され、逆に壁をつくる相手には「排他的」「非社交的」といった印象を持たれることもある。一方、より控えめな自己開示を好む文化圏では、出会って間もない相手から出身や家族について尋ねられることに戸惑いや踏み込みすぎだという感覚を抱く場合がある。

日本のビジネス文化は、後者に近い傾向がある。初対面でいきなり家族構成やプライベートな話題に踏み込むことは一般的ではなく、時間をかけて少しずつ距離を縮めていくスタイルが好まれる。この感覚の違いを理解していないと、「なかなか心を開いてくれない」あるいは「距離感が近すぎる」といった、双方にとって不本意な誤解が生まれやすい。

4. 立ち居振る舞い 

初対面の相手に対して、どのような雰囲気で接するか。にこやかで温かく、フランクな態度で相手を安心させるのか。それとも表情を抑え、礼儀や作法を重んじる姿勢で接するのか。この「立ち居振る舞い」も、文化的な色彩が強く出る領域であり、誤解が生まれやすいポイントの一つである。

象徴的な例として、フランス人とアメリカ人が交流するビジネスの場面が挙げられる。フランスのビジネスパーソンは、礼儀正しく、品格を保ちながら、やや控えめに振る舞うことで良い印象を与えようとする傾向がある。知性や専門性を示すために、あえて哲学的な話題を選ぶこともある。しかし、そうした態度は、明るさや親しみやすさのシグナルを求めるアメリカ人の目には、よそよそしく、近寄りがたいものとして映ることがある。逆に、スポーツやポップカルチャーについて笑顔で気さくに話すアメリカ人の態度は、フランス人からは軽薄で威厳に欠けるものと受け取られかねない。

日本のビジネスパーソンが持つ、控えめで礼を尽くす立ち居振る舞いも、相手の文化によっては「距離を置かれている」と誤解されるリスクをはらんでいることを知っておく必要がある。

実践に向けて — 4つの視点をどう活かすか

「場所」「上下関係」「自己開示」「立ち居振る舞い」という4つの視点は、いずれも唯一の正解があるものではなく、あくまで文化ごとの傾向を理解するための切り口である。グローバルな環境で働く、あるいは多国籍のチームを率いる日本のビジネスパーソンにとって重要なのは、次の3点に集約されるだろう。

第一に、自分自身の関係構築のスタイルが当たり前ではなく、数ある文化的な型の一つに過ぎないと自覚すること。第二に、相手の言動を自国の物差しで即座に評価せず、その背景にある文化的な文脈を想像する習慣を持つ。そして第三に、相手の文化における関係構築のシグナルー場所、間合い、自己開示のタイミング、振る舞いのトーンーを注意深く観察し、必要に応じて自分の型を柔軟に調整し、相手のスタイルを取り入れてみること。

多様性のある職場の力を最大限に引き出す鍵は、制度や仕組みだけでなく、こうした一人ひとりの異文化理解と、日々の小さな歩み寄りの積み重ねにある。

(執筆者:武田)