#008「変わりたい」と思っても変われない理由―脳科学が教える成長のメカニズム

「もう自分は変われない。」-そう感じたことはありませんか。

もし、一度でもそう思ったことがあるなら、「神経可塑性(しんけいかそせい)」という脳の性質について知ってほしいと思います。変われないのではなく、脳がどのように変化するのか、その仕組みを知らなかっただけかもしれないからです。

私が神経可塑性という言葉を知ったきっかけは、フリースタイルスキー選手のアイリーン・グーのインタビューでした。彼女は22歳という若さで2026年ミラノ・コルティナ冬季オリンピックにおいて3つのメダルを獲得した世界トップクラスのアスリートである一方、スタンフォード大学で国際関係学を学び、量子物理学にも取り組む学生でもあります。

競技と学業。どちらか一方でも卓越することは簡単ではありません。それにもかかわらず、彼女は両方の分野で世界トップレベルの成果を上げています。

なぜ、一人の人間がここまで成長し続けることができるのだろう。

そう思ってインタビューを見ていると、彼女は次のような言葉を語っていました。

“You can control what you think, you can control how you think, and therefore you can control who you are. With neuroplasticity on my side, I can literally become exactly who I want to be.”

「何を考えるかは自分でコントロールできる。どう考えるかもコントロールできる。そして、それによって自分がどんな人間になるかも決められる。脳の可塑性という性質を味方につければ、自分がなりたい自分になることができる。」

一体、なりたい自分になることができる神経可塑性とは何なのでしょうか?

神経可塑性(ニューラルプラスティシティ)とは

「運動を継続したい」「英語を毎週勉強したい」と目標を立てても、数週間後には元の生活に戻ってしまった経験はないでしょうか。多くの人は、それを「意志が弱いから」と考えがちです。しかし、最新の脳科学は、変化を妨げている原因は必ずしも本人の意志ではないと、神経可塑性の研究から明らかになっています。

神経可塑性とは、新しい経験や行動を通じて神経回路を組み替え続ける能力のことです。かつては、大人になると脳はほとんど変化しないと考えられていました。しかし、現在では、脳は生涯にわたって変化し続けることが明らかになっています。つまり、私たちの能力や習慣は固定されたものではなく、日々の行動によって少しずつ書き換えられているのです。

一方で、脳には効率を優先するという特徴があります。長年繰り返してきた行動は神経回路が強化され、ほとんど意識しなくても実行できるようになります。そのため、新しい挑戦を始めようとすると、脳はこれまで慣れ親しんだ行動を選ぼうとします。変化を始めたときに感じる「面倒くさい」「やっぱりやめよう」という抵抗感は、意志の弱さではなく、脳がエネルギーを節約しようとする自然な反応なのです。

だからこそ、本当の変化は「気合い」ではなく「反復」によって生まれます。小さな行動を積み重ねることで、新しい神経回路は少しずつ強化され、やがて以前の習慣よりも自然なものへと変わっていきます。一度の大きな努力よりも、小さな行動を継続することが重要なのは、この脳の仕組みに理由があります。

また、新しい神経回路を強化するには「適度な負荷」が必要です。快適な環境にいるだけでは、脳は既存の回路を使い続け、新しい回路を作ろうとはしません。少し難しい仕事に挑戦したり、新しい分野を学んだり、普段とは異なる環境に身を置いたりすると、脳は「今は重要な学習が起きている」と判断し、新たな神経回路を形成し始めます。つまり、不快感は、成長が始まっているサインとも言えるのです。

「変わる」ということは、一夜にして別人になることではありません。昨日より少しだけ新しい行動を積み重ね、その経験を脳に刻み続けることです。その積み重ねが、やがて自分自身の可能性を広げ、未来を変える力になっていくのです。

神経可塑性は、今回ご紹介した内容以外にも、学習や記憶、創造性、など、さまざまな分野と深く関わる非常に奥深いテーマです。私自身も調べるほど新たな発見があり、その面白さに引き込まれました。ぜひ皆さんも、この機会に「脳の可塑性」について調べてみてください。私たちの「変われる可能性」を支える脳の仕組みを知ることが、未来の新しい自分への第一歩かもしれません。

(執筆者:武田)