「人間力を高めるヒント」#012 尖ったリーダーが教えてくれたこと

■30年近いお付き合いから考える、リーダーシップと人間力

人との出会いには、その後の人生や仕事に長く影響を与えるものがある。私にとって、1997年に出会ったある経営者は、まさにそのような存在の一人である。

先日、その方と久しぶりにお会いする機会があった。現在は60代後半。東証プライム上場企業の社長を務められ、第一線を退かれた後も、複数の企業で社外取締役として経営に携わっておられる。

最初にお会いした頃は、まだ数百名規模の企業で、統括部長という立場だった。IT系のエンジニアとしてキャリアをスタートさせ、専門的な技術力と卓越した実行力を武器に、経営幹部への階段を登っていた時期である。

当時の創業社長は、将来、この方を後継社長に据えることを考えておられた。経営者としての資質を早くから見抜いていたのだろう。

しかし、その人物像は、一般的にイメージされる温厚で調整型のリーダーとは大きく異なっていた。

■強烈な個性は、リーダーの強みか、弱みか

一言で表現するなら、専制君主型のリーダーである。

自分の考えを明確に持ち、妥協を好まず、決めたことは徹底的にやり抜く。物事の本質を鋭く見抜く一方、周囲に対しても高い水準を要求する。

当然ながら、敵も少なくなかった。

組織において、強いリーダーシップは時として反発を生む。周囲との摩擦を避け、合意形成を優先することが望ましいとされる現代の組織マネジメントから見れば、必ずしも理想的なリーダー像とはいえないかもしれない。

しかし、私は長年のお付き合いを通じて、一つの問いを持ち続けてきた。

「優れたリーダーとは、果たして誰からも好かれる人物なのだろうか」

もちろん、独善的な意思決定や部下への過度な圧力を肯定するつもりはない。リーダーの強さが、周囲の萎縮や主体性の喪失につながることもある。

一方で、変革を実現するには、時として周囲の反対を押し切る決断力も必要となる。重要なのは、強烈な個性そのものではなく、その個性が何に向けられているかではないだろうか。自己保身や権力の維持に向かうのか。それとも、組織の未来と成果に向かうのか。この違いは極めて大きい。

■技術者から経営者へ-能力の転換

もう一つ、私が注目してきたのは、技術者から経営トップへと登り詰めたキャリアである。優秀な技術者が、そのまま優秀な経営者になるとは限らない。

技術者として求められるのは、専門知識、論理的思考力、課題解決力などである。一方、経営者には、将来を構想する力、経営資源を配分する力、人を動かす力、そして不確実な状況で決断する力が求められる。

つまり、キャリアの発展に伴って、求められる能力の質そのものが変化する。

専門性という一つの武器だけでは、経営トップには到達できない。自らの強みを維持しながら、新たな役割に必要な能力を獲得し続けること。そこには、自己変革のプロセスが存在する。

私が長年研究してきた「人間力」という観点から見ても、これは興味深いテーマである。

人間力とは、単なる知識やスキルの総量ではない。

健康という土台の上に、人格や価値観があり、使命や未来への志があり、それらを実現するための戦略と実行能力がある。

専門能力が高くても、他者の立場を理解できなければ、組織の力を十分に引き出すことは難しい。逆に、人望が厚くても、未来を構想し、決断する力が不足していれば、変革を実現することはできない。

■年齢を重ねても、挑戦する人

現在、この方は複数の企業の社外取締役として活躍されている。経営トップを経験した人物が、今度は外部の立場から経営を支える。そこでは、自らが最終決定権を持っていた時代とは異なる能力が求められる。経営者に助言する力、相手の意思決定を尊重する力、必要な場面では厳しい指摘を行う力。

「自分が決める」立場から、「他者の意思決定の質を高める」立場への転換である。

これは、経営者としての経験を別の形で社会に還元する、意義深いキャリアの発展形だと思う。同時に、年齢や過去の実績に安住することなく、社会との接点を持ち続ける姿勢にも学ぶところがある。

人は、役職を失ったときに価値を失うのではない。

役職という肩書がなくなった後に、何を提供できるか。そこに、その人が長年培ってきた本当の人間力が表れるのではないだろうか。

■人間力を高めるヒント

今回の再会を通じて、改めて考えたことがある。

それは、人間力を高めるとは、自分の個性を消すことではなく、自分の強みと弱みを理解し、環境や役割の変化に応じて、自らを進化させ続けることだということである。

強烈な個性には、光と影がある。

大切なのは、自分の強みがどのような場面で価値を生み、どのような場面で弱みに転じるのかを理解することだ。

経営者も管理職も、そして一人ひとりのビジネスパーソンも、今一度、自らに問いかけてみたい。

「自分の最大の強みは何か。そして、その強みが周囲に与えている影響を、どこまで理解しているだろうか」

1997年から30年近く、一人の経営者との長いお付き合いは、私にとって、リーダーシップと人間力を考え続ける貴重な機会となっている。人に学び、自分を知り、自分を変える。その積み重ねこそが、人間力を高める道なのだと思う。