#010 答えよりも、問いを磨く―フランスの大学で学んだ「問題設定」の力

フランスの大学で経済学と社会学を専攻していた私は、経済学の数学的な要素が求められる試験を除き、多くの授業で記述形式の試験を経験しました。

記述形式の試験は教授によって異なりますが、主にいくつかの抽象的なテーマから一つを選び、3〜4時間かけて一つの小論文を完成させます。

「一つの問題に答えるために3〜4時間もあるの?」と思われるかもしれません。しかし、実際に試験を受けてみると、その時間は驚くほど早く過ぎていきます。だからこそ、時間の使い方が非常に重要になります。

フランス式小論文の書き方を教わった時に教授から、時間配分においてアウトラインを考える時間をとるのがとても重要だと念を押されました。そして多くの学生が試験開始後の30分から1時間ほどを、すぐに書き始めるのではなく、アウトラインを考える時間に使っています。

そして、このアウトラインを組み立てるうえで最も重要なのが、「プロブレマティック(problématique)」を設定することでした。このプロブレマティックとは与えられたテーマを具体化し、小論文で答える設問と方向性について具体的に示した「問い」です。

「何を答えるか」ではなく、「何を問うか」

プロブレマティック を作成する上で重要となるのは、与えられたテーマをそのまま言い換えるのではなく、そのテーマの中にある対立関係、本質的な論点を見つけ出し、自分なりの問いとして設定することです。

例えば、「ある制度がなぜ生まれたのか」というテーマが与えられたとします。

単に制度が生まれた背景を時系列に並べるだけでは、十分な答えにはなりません。

「なぜその制度が必要とされたのか」
「その制度によって誰が利益を得たのか」
「制度が生まれたことで、逆にどのような問題が生じたのか」

といった問いを自分で掘り下げ、その中から自分なりの「問題」を設定する。

そして、その問いに答えるために、歴史的な背景や複数の要因を整理し、論理的に議論を組み立てていきます。

つまり、試験で問われているのは、知識をどれだけ覚えているかだけではありません。何を問題として捉えどう伝えるのかを自分で考える力なのです。

この経験を通じて、私は「問題を解く力」と「問題を設定する力」は別物なのだと気づきました。私たちは普段、「どうすればこの問題を解決できるだろう?」と考えがちです。

しかし、その前に一度立ち止まって、

「そもそも、私たちは何を問題だと思っているのだろう?」

と問い直してみる。

問いの立て方が変われば、問題の見え方も、導き出される答えも変わります。

実は、この「問題を解く前に、問題そのものを見直すこと」の重要性は、ビジネスの世界でも指摘されています。Harvard Business Reviewの記事「To Solve a Tough Problem, Reframe It」では、企業の意思決定を調査した研究をもとに、問題解決を急ぐことで、革新的で持続的な解決策を生み出す可能性が狭まると指摘されています。問いの深め方の具体的な方法論を記述しているので興味のある方はぜひ読んでみてください。

これからの社会に必要な「問いを立てる力」

AIの発達によって、私たちは以前よりも簡単に「答え」を手に入れられるようになりました。分からないことがあれば検索でき、AIに質問すれば文章やアイデアまで瞬時に返ってきます。だからこそ、これから重要になるのは、単に「早く答えを出す力」だけではないのではないでしょうか。

時には、すぐに答えを出さず、立ち止まって問いを深めてみる。

皆さんも何か問題に直面したとき、どう解決するかではなく、問いを磨くことに時間をかけてみることを意識してみてはいかがでしょうか。

今回で10回目の投稿です。この連載は終了したいと思います。ご愛読いただき、ありがとうございました!

(執筆者:武田)